コビントン・バーリング法律事務所より、8月に配信したニュースやブログ記事等をまとめてお送りします。
今月のPick Up記事は下記になります。
1) 米国・EU間の通商合意の概要と今後の展開
2) トランプ政権発足後6か月間にみる司法省による企業犯罪執行動向
3) CFIUS年次報告書(2024年版)の概要及び要点
4) 司法省が政府契約に基づく連邦資金受給者向けに「違法な差別」慣行
に関するメモランダムを発出
5) 米国がインドに対する二次関税を導入
6) 米国の対ブラジル関税・制裁及びブラジルの対応
7) カリフォルニア州気候情報開示法に関する最新情報Pick Up
[米国/EU/関税]
米国・EU間の通商合意の概要と今後の展開
U.S.-EU Trade Framework: Outcome and Next Steps
2025年7月27日、米国とEUは関税合意を発表しました。本合意により、米国によるEUに対する30%の相互関税と、EUによる米国に対する最大930億ユーロの報復措置が回避されました。
本合意により、米国によるEUに対する相互関税は原則15%(MFN関税を含む15%の相互関税であり、MFNに上乗せする15%の相互関税ではない)となり、また、米国通商拡大法232条に基づく追加関税の対象となる自動車・半導体・医薬品に対しても15%の関税率が適用されることとなりました。ただし、鋼鉄・アルミニウムに対する同条に基づく50%の追加関税は当面維持されます。加えて、米国によるEUに対する航空機・航空機部品、一部の化学品・後発薬及び天然資源に対する関税は無税化されることとなりました。
一方で、EUは一定額の米国産エネルギーの購入、米国に対する一定額の追加投資、軍需品の購入を約束しました。また、米国の工業製品(自動車部門を含む。)に対する関税を撤廃し、米国による一部農産品に対する市場アクセスを改善することも約束しています。
米国側は、同年7月31日に公表した大統領令により、8月7日から相互関税を15%に引き下げています。一方で、EU側の手続きは複雑になることが予想されるところ、一定の時間を要することが予想されます。
米国通商拡大法232条では、米国・EU間の合意対象となった品目以外にも追加関税のための調査が進められているほか、米国はEUによるデジタル規制に関して批判的な立場をとっています。今後、米国側がEUに対して追加の関税措置を講じる可能性もあるところ、引き続き注意が必要です。
[企業犯罪/コンプライアンス/FCPA]
トランプ政権発足後6か月間にみる司法省による企業犯罪執行動向
DOJ White Collar Enforcement Six Months into the Trump Administration
トランプ政権及び司法省(DOJ)は、2025年5月及び6月に、企業犯罪の執行に関する重要な政策を複数公表しています。例えば、トランプ大統領が署名した大統領令(Fighting Overcriminalization in Federal Regulations:連邦規制における過剰刑事化の防止)は、規制違反(regulatory offenses)及び無過失責任犯罪(strict liability criminal offenses)に対する刑事執行は好ましくないとした上で、規制違反については、規制を知りながら意図的にこれを遵守しなかった場合に訴追すべきとしています。また、司法省の刑事局は、企業犯罪取締計画(white collar enforcement plan)を発表し、貿易・関税詐欺、カルテルや国際犯罪組織に関する制裁違反等の10の重点分野に注力して取り締まりを行うことを公表しています。本稿では、その公表された政策をもとに、トランプ政権下における司法省の企業犯罪に対する執行方針を解説しています。
[米国/外国投資/CFIUS]
CFIUS年次報告書(2024年版)の概要及び要点
Overview and Key Takeaways from CFIUS 2024 Annual Report
対米外国投資員会(CFIUS)は、2024年の外国投資を伴う取引審査に関する年次報告書を公表しました。これはCFIUSの審査及び執行プロセスの動向を示すものですが、対象期間は暦年2024年のみであるため、バイデン前政権の下でのトレンドを示すものであることに留意が必要です。すなわち、前回の記事で解説したとおり、トランプ政権の下では、アメリカファースト投資方針(America First Investment Policy)を受けて、CFIUSの審査等に一部変化が見られます。ただ、例えば、2024年の年次報告書からも、CFIUSは地政学的・戦略的配慮により重点を置くようになっていると分かるところであり、政権交代を受けても一部のトレンドは継続しているといえます。本稿では、2024年の年次報告書の注目すべき点について解説しています。
[政府契約/雇用/DEI]
司法省が政府契約に基づく連邦資金受給者向けに「違法な差別」慣行に関するメモランダムを発出
DOJ Issues Memorandum for Federal Funding Recipients Addressing “Unlawful Discrimination” Practices
2025年7月29日、司法長官は「連邦資金受給者向け違法な差別に関するガイダンス」と題するメモランダムを発出しました。このメモランダムは、違法差別や優遇措置(DEIを含む)の廃止を求める大統領令(Ending Illegal Discrimination and Restoring Merit-Based Opportunity:違法な差別の終結とメリットに基づく機会の回復)に続くものであり、政府契約に基づく連邦資金受給者に向けてガイダンス及びベストプラクティスを提供するものとされます。具体的に、メモランダムは、特定の保護対象となる属性(protected characteristics)に基づき優遇を与えること、差別や敵対的環境を助長するおそれのある研修プログラムを実施すること等の5つのカテゴリーを「違法な慣行」と位置付けています。このメモランダム自体は法的拘束力を持つものではないですが、司法省(DOJ)その他の規制当局が、DEIに関連する一定の活動について連邦反差別法違反として調査対象とする可能性があることを示しています。
[米国/インド/関税]
米国がインドに対する二次関税を導入
Trump Administration Imposes Secondary Tariffs on India
2025年8月6日、トランプ大統領はIEEPAに基づき、ロシア産石油を輸入するインドに対し、8月27日から25%の二次関税を賦課すると公表しました。インドに対する25%の相互関税と併せて、多くのインド産品は一部の例外のもと累計50%の関税率が適用されることになります。
今回の措置はG7によるロシア産石油価格に関するプライスキャップ政策からの事実上の離脱であり、ロシアに対する圧力を強化する路線への転換を示唆しています。
[米国/ブラジル/関税/経済制裁]
米国の対ブラジル関税・制裁及びブラジルの対応
U.S. Tariffs and Sanctions Against Brazil and the Brazilian Response
2025年7月30日、米国はIEEPAに基づきブラジルに対し、8月6日から多くのブラジル産品に対して40%の追加関税を課すと公表しました。ブラジルに対する10%の相互関税と併せて、一定の例外の下、累計50%の関税率が適用されることとなります。また、USTRはブラジルに対して1974年通商法301条に基づく調査を実施しており、今後追加の関税措置が導入される可能性もあります。加えて、米国はブラジル最高裁のモラエス判事に対しビザの取消とグローバル・マグニツキー法に基づく経済制裁を実施しました。
ブラジルは米国の措置に反発しており、米国に対する報復措置を準備するほか、WTOへの提訴を行っています。
[環境/ESG/カリフォルニア]
カリフォルニア州気候情報開示法に関する最新情報
Litigation and Implementation Updates on California Climate Disclosure Laws (SB 253 and SB 261)
2025年7月9日、カリフォルニア大気資源局(CARB)は、カリフォルニア州の気候情報開示法である気候関連企業データ開示法(Climate Corporate Data Accountability Act)及び気候関連財務リスク開示法(Climate-Related Financial Risk Act)に関するFAQを公表しました(気候関連企業データ開示法についてはこちら、気候関連財務リスク開示法についてはこちらの記事もご参照ください)。FAQにおいては、これら開示法の適用範囲を画する重要な用語、報告の期限・期間等について解説されています。気候関連財務リスク開示法に基づく初回報告の期限は2026年1月1日とされており、対象企業においては早期から開示に向けての準備を進めることが重要となります。なお、これらの開示法については、企業の情報開示を強制するもので合衆国憲法修正第1条(言論の自由)に違反するとして訴訟提起されていますが、2025年8月13日、カリフォルニア連邦地方裁判所は仮差止めの申立てを却下しています。
ご不明な点やより詳しい情報の入手等のご要望がございましたら、ジャパンプラクティス代表木本までご連絡ください。
News
[米国商務省国際貿易局(ITA)元高官Arun VenkataramanがCovingtonに加入しました] Venkataramanは2022年から2025年まで、ITAにおいてAssistant Secretary of Commerce for Global Markets 及び Director General of the U.S. and Foreign Commercial Serviceを務めました。コビントンでは、国際貿易とサプライチェーン問題に特化し、特に関税政策、二国間貿易・投資交渉、デジタルトレードとAI、並びに国家安全保障、経済安全保障及び貿易政策とが交錯する場面における戦略的なアドバイスを提供します。
[The American Lawyer誌 “A-List” に10年連続で選出されました] A-Listランキングは、弁護士一人あたりの収益に加え、プロボノへのコミットメント、アソシエイトの満足度、人種・ジェンダーの多様性といった側面からTop10弁護士事務所を選ぶもので、コビントンは2003年以降20回目の受賞となります。
[USスチールを代理してトランプ政権との交渉にあたった弊所CFIUSチームによるセミナーが経団連会館で開催されます] 日本製鉄によるUSスチール買収に際しUSスチールのCFIUSカウンセルを務めたMark Plotkin及びDavid Faganが、対米投資の動向と対策につき解説します。9月10日15時から、経団連会館にて、1時間程度の講演(日英同時通訳)の後、質疑応答と名刺交換・懇談のためのレセプションを予定しております。参加費は無料、会場参加のみの受付となっております。お申込ご希望の方は木本までご連絡下さい。
[California Law Firm of the Year に選出されました] これは、The Recorder及びLaw.comの選出するthe California Legal Awards のうち、最高のものです。コビントンは、他にも、the Tech Industry Advisory Team of the Year、Distinguished Leader(Emily Henn)、Women Leaders in Tech Law(Emily Henn)、Dealmaker of the Year(Robyn Polashunk)、Entertainment Lawyer of the Year(Robyn Polashunk, Neema Sahni)、Office Managing Partner of the Year (Gretchen Hoff Varner) のカテゴリでファイナリストに選出されています。
[検査・品質データ改ざんのグローバルリスクとその対策につき解説するセミナーを東京で行います] 前半の講義は木本泰介及び森永一郎より日本語で行い、後半の質疑応答はMark Finucane及びNoam Kutlerを交え英語(日本語通訳/サマリー付)で行います。コビントンはデータ改ざんに伴う政府当局による調査と執行につき日本企業を含む多くのグローバル企業にアドバイスを提供しており、深い経験に基づく知見を共有できる貴重な機会と存じます。セミナー後は立食懇親会も予定しておりますのでぜひご参加下さい。10月22日16時から。*経営法友会会員様限定です。
Practice Spotlight — Cybersecurity
営業秘密の盗用や企業スパイ行為等の内部脅威の基礎から具体的な対応策まで4部構成で網羅したウェビナーシリーズInsider Threatが大変好評でしたので、今月は、同ウェビナーを主催した弊所Cybersecurity グループをご紹介いたします。
コビントンのCybersecurityグループのメンバーには、米国国土安全保障省や司法省等の元高官が含まれており、それらを含む米国連邦・州当局のほか、EU、アジア、ラテンアメリカなどのデータ保護当局とも協力し、サイバー脅威への対応と防御に取り組んでいます。日本企業へもアドバイスしているAshden FeinとMicaela McMurroughは今年もデータ漏洩対応に最も優れた弁護士50人のリスト “Incident Response 50”に選出されています。
Inside Privacyブログを通じて最新情報を提供しておりますので、ぜひご登録下さい。Cybersecurityタグのつけられたブログポストはこちらからご覧いただけます。また、Government ContractsチームによるブログもCybersecurityについて網羅しており、“July 2025 Cybersecurity Developments Under the Trump Administration”等、最新情報を配信しています。Cybersecurityタグのつけられたブログポストはこちらでご覧ください。冒頭でご紹介したInsider Threat ウェビナーシリーズの録画にはこちらからアクセスいただけます。
Webinars
弊所主催のWebinarは、参加のご登録をいただくと後日録画をご視聴いただけます(オフレコのWebinarを除く)。開催済のウェビナーも録画視聴のご登録をいただける場合がありますのでご確認ください。録画その他のご要望がございましたらジャパンプラクティス代表木本までご連絡ください。
Alerts
毎月複数のアラートを送信しております。コビントンではWebinarも数多く開催しており、アラートにご登録いただくと、Webinar情報もタイムリーにお届けできます。ぜひこちらでご登録ください。
Blogs
多彩なプラクティスグループがブログ記事を発行しております。AlertのSubscription とは別になっておりますので、こちらもぜひご登録ください。
Covington Digital Health
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