コビントン・バーリング法律事務所より、10月に配信したニュースやブログ記事等をまとめてお送りします。
今月のPick Up記事は下記になります。
1) 商務省及び米国特許商標庁(USPTO)、特許税
の導入と特許関連費用の変更を検討
2) データセンター:新たに生じるリスクと保険における対応の検討
3) カリフォルニア州、新たなプライバシー関連法を制定
4) SECの強制仲裁条項に関する方針声明とその影響
5) FDA、早期警告コミュニケーション・プログラム(Early Alert
Communications Program)の適用範囲を拡大
6) FCC、「スペース月間(Space Month)」アジェンダを発表
7) 議会倫理調査:プロセスの概要、課題、民間企業への影響
8) イタリア、AI法を制定
Pick Up
[知的財産権/税金]
商務省及び米国特許商標庁(USPTO)、特許税の導入と特許関連費用の変更を検討
Commerce Department and U.S. Patent and Trademark Office Exploring a Patent Tax and Patent Fee Changes
トランプ政権は、米国の特許権者からの歳入を増やそうと検討しています。まず、商務省(Commerce Department)長官は、特許全体の価値に対して1%から5%の特許税を課すことを検討しています。現時点では、特許税の対象となるものの範囲や、特許価値の算定プロセス等の詳細は商務省から発表されていませんが、特許税の導入は、これまでの実務から大きく異なるものになります。この動きに関し、利害関係人や専門家からは、特許税を導入したら米国の知的財産権の基盤を弱めることにつながる(詳細はこちらをご参照ください。)、また、特許価値の算定を政府が行うことは難しいのではないか、などの否定的な反応が示されています。次に、米国特許商標庁(U.S. Patent and Trademark Office, USPTO)の副長官は、商務省が、現在の特許関連費用(出願料、審査費用、維持費等)が特許の持つ価値に相応しい金額になっていないとして、特許関連費用の改定を検討していると述べています。リーヒ・スミス米国発明法(Leahy-Smith America Invents Act)上、USPTOの長官に、こうした特許関連費用の改定に関する一定の裁量が付与されており、もともとこの権限は2018年に失効する予定でしたが、2026年まで失効が延長されています。USPTOの副局長は、当該改定は、同法に基づいて行われ、改定案が公表されたのち、パブリックコメントの募集や公聴会での利害関係人からの意見聴取を経て行われると述べています。さらに、商務長官は、今後、連邦からの資金援助を受けた大学(federally-funded university)の研究を通じて取得された特許からも政府は歳入を取得すべきである旨を述べています。商務省は、具体的にどのように大学の特許から歳入を取得するのかを明らかにしていませんが、大学に対して、連邦から資金援助を受けた研究に基づく特許一覧の情報等を要求しはじめています。
[AI/データセンター/保険]
データセンター:新たに生じるリスクと保険における対応の検討
Data Centers: Emerging Risks and Insurance Coverage Considerations
近年、AIアプリやクラウドコンピューティングの急速な発展により、データセンターは企業の中核的なインフラとして重要性を増しています(本稿では、直近の米国における政府・民間によるデータセンターへの主要な投資事例も紹介しています。)。多くのテクノロジー企業が自社専用のデータセンターを構築する一方、他社のデータセンターを利用する企業も増えています。このように、データセンターは新たなビジネスチャンスを拡大するものですが、その反面、自然災害や人為的事故による物理的損害、サイバー攻撃、稼働停止による業務中断や収益損失、関係者からの損害賠償請求、顧客や周辺住民からの苦情や訴訟などの多様なリスクも存在します。これらのリスクは保険でカバーすることが可能ですが、データセンターの関係者は、自社の保険契約が、リスクに対応できる内容かを確認する必要があります。本稿では、火災事故を原因とするサーバー焼損による操業停止(Fire)、サイバー攻撃によるシステムの停止(The Cyber Lockdown)、データセンター施設拡張に関する地域住民の環境問題への懸念から許認可手続の遅れること等による遅延(The Start-Up Delay)といった仮想事例の場合における、保険の適用可能性について解説しています。もっとも、実際にはより多くのリスクが想定されるため、データセンター関係者は、保険契約の内容を十分に理解し補償範囲や除外事項を確認することが重要です。また、保険契約の適用に際しては紛争が生じる可能性もありますが、本稿では、具体例として、データシステムの障害が、従来の財産保険(property policy) が適用されるために必要な「物理的損失又は損害(physical loss or damage)」に当たるかどうかについて判示した3つの米国の裁判例を紹介しています。
[データ保護/AI規制]
カリフォルニア州、新たなプライバシー関連法を制定
California Enacts New Privacy Laws
近時、カリフォルニア州では、複数のプライバシー関連法が制定されました。まず、オプトアウト法(The California Opt Me Out Act)の下、ブラウザを開発/保守する事業者は、消費者がオプトアウトシグナルを送信できるような機能をブラウザに組み込むことが求められます。また、データブローカー登録法(California data broker registration law)が改正され、データブローカーは、氏名・住所・電話番号・労働組合員資格・性的指向等の情報を収集しているか、過去1年間に外国政府や生成AIの開発/販売事業者にデータを共有したか等を開示することが求められます。さらに、AIチャットボット規制法(Companion Chatbot Act)により、コンパニオンチャットボット(ユーザーの入力に対して適応的で人間のような応答を提供するAIチャットボット)の運営者は、AIとの対話であることをユーザーに対して通知するとともに、自殺や自傷行為等に関するコンテンツを提供することを防止する措置を講じることが必要になります。本稿では、これらを含む、近似の注目すべきプライバシー関連法について解説しています。
[米国/ SEC/証券/仲裁]
SECの強制仲裁条項に関する方針声明とその影響
The SEC’s Policy Statement on Mandatory Arbitration Provisions – What Does It Mean For You?
米国証券取引委員会(SEC)は、2025年9月17日付の方針声明(Policy Statement)において、発行体(issuer)が定款・附則等において投資家との紛争を強制的に仲裁に付すことを義務付ける条項(mandatory arbitration provisions、強制仲裁条項)を含んでいたとしても、そのこと自体を理由として登録届出書(registration statement)の効力発生日の加速決定(acceleration of effectiveness)に影響しないとの方針を示しました。SECは、これまで1933年証券法第14条の「権利放棄禁止条項」が発行体・投資家間の強制仲裁条項を禁止しているとの立場にたっており、大きな方針転換と言えます。これをもって、強制仲裁条項を定款・附則等に規定する道がひらかれたと受け止める企業があるかもしれませんし、また、強制仲裁条項の導入が証券集団訴訟の減少をもたらす可能性があるとの指摘もあります。しかし、この方針声明は強制仲裁条項の有効性を承認するものではなく、州法との関係も不明なままです。本稿では、SECの方針変更の内容と、強制仲裁条項に関する州法及び連邦上の問題点や実務上の留意点について解説しています。
また、SECの方針変更が証券集団訴訟に与える重大な影響については、ブログポストSEC Changes Policy on Issuer-Investor Arbitration Provisions With Important Implications for Securities Class Actionsで解説しています。
[医療機器/ライフサイエンス]
FDA、早期警告コミュニケーション・プログラム(Early Alert Communications Program)の適用範囲を拡大
FDA Expands Early Alert Communications for Medical Devices
米国食品医薬品局(Food and Drug Administration, FDA)は、医療機器に関する「早期警告コミュニケーション・プログラム(Early Alert Communications Program)」の対象をすべての医療機器に拡大すると発表しました。本プログラムは、FDAが医療機器の安全上の高リスク事案を認識してから一般に公表するまでの時間を短縮することを目的として、2024年に試験的に導入されたものです。従来は、心血管、泌尿器科、総合病院、産婦人科などの特定分野の機器のみを対象としていましたが、今後はすべての医療機器に適用されることになります。
本プログラムは、患者団体からの提言を踏まえて開始されたものであり、メーカーの対応がFDAによって正式にリコールと認定されていない段階でも、潜在的に高リスクと考えられる場合に、迅速な注意喚起を行うことを可能とするものです(FDAによる本プログラムの説明についてはこちらをご参照ください。)。早期警告は、FDAのデータベース(FDA’s public Medical Device Recalls and Early Alerts database)に掲載され、対象製品、警告の理由、利用者が取るべき対応、報告されている死亡・負傷事例などが記載されます。
なお、FDAは、現時点で、早期警告の発出基準や手続に関する詳細なガイダンスを公表していませんが、早期警告は、FDAによってリコールと認定されたり、企業による内部リスク評価が完了する前にも発出され得るとされています。そのため、医療機器メーカー等の関係者は、FDAからの問合せ・調査や、製品に関する問題が早期に公表される可能性に備えて、社内の体制をあらかじめ整えておく必要があります。
[米国/FCC/通信/宇宙政策]
FCC、「スペース月間(Space Month)」アジェンダを発表
FCC Launches ‘Space Month’ Agenda
米国連邦通信委員会(Federal Communications Commission:FCC)は、2025年10月を「スペース月間(Space Month)」と宣言し、米国の宇宙産業に関する規制枠組みを近代化するための二つの重要な提案を発表したました。これはFCCの「Build America」アジェンダの一環として実施されるものであり、衛星および地上局に関するライセンス制度の合理化、迅速化、そして柔軟性向上を目指すものです。
今回の提案は、2025年8月の公開会合で採択された新規則に続く取り組みとして位置づけられており、米国の宇宙イノベーション促進に向けた次のステップとされています。本稿では、第1の提案である宇宙ライセンスの近代化、第2の提案である高周波マイクロ波帯域のより積極的な利用促進に関する規則制定について、それぞれその概要と意義について解説しています。
[議会調査/公共政策/選挙及び政治規制]
議会倫理調査:プロセスの概要、課題、民間企業への影響
Congressional Ethics Investigations: An Overview of Processes, Challenges, and Implications for Private Actors
近時、米国の議会倫理調査が注目を集めています。特に、下院の倫理委員会はより積極的に調査活動を行うようになっており、ロビー活動等を通じて、議員及びそのスタッフと交流する機会のある民間企業においても、注意が必要になっているといえます。すなわち、民間企業においては、たとえ不正行為に直接的に関与していなかったとしても、その交流する議員に対する調査が開始されると、証人又は記録保管者として、広範な文書提出要求や証人尋問への対応が必要になったり、さらには、調査に関連するレピュテーションリスクや法的リスクなど、様々なリスクに直面する可能性があります。このため、議員と交流する機会のある民間企業においては、明確な社内コンプライアンス手続と議会倫理調査への対応計画を整備する等して、これらのリスクに予め備えておくことが重要といえます。本稿では、議会倫理調査のプロセス及び民間企業への影響について、解説しています。
[AI規制/テック規制/欧州]
イタリア、AI法を制定
Italy Adopts Artificial Intelligence Law
2025年9月23日、イタリアは、AI法を制定しました。欧州連合(EU)はEU AI法を制定しており、EU加盟国でのAIシステムの開発・利用についてはEU AI法が直接に適用されることとなりますが、イタリアAI法は、EU AI法を補完するため、イタリア国内でのEU AI法の施行に向けて管轄当局の指定等を行うとともに、EU AI法でカバーされていない分野におけるAI開発・利用についてルールを定めています。具体的に、イタリアAI法は、国家サイバーセキュリティ―庁(Agenzia per la cybersicurezza nazionale)を市場監視当局として指定しており、同庁が、EU AI法の下での事業者に対する監督や執行等を担当することになります。また、イタリアAI法は、医療分野では、公的機関及び民間非営利団体が、医療分野での科学研究目的で、AIシステム開発のために個人データを二次利用する場合について、データ保護法(GDPR)に基づく義務を緩和する(データ主体からの同意取得を不要と整理する)こととし、医療分野でのAI開発を促進しています。さらに、雇用分野において、使用者に対して、職場におけるAIシステムの使用について労働者に通知することを義務付けています。
ご不明な点やより詳しい情報の入手等のご要望がございましたら、ジャパンプラクティス代表木本までご連絡ください。
News
[米国内国歳入庁(IRS)元特別顧問 Joanne Fayが入所しました] IRS主席法律顧問官室において、訴訟・アドバイザリー部門の特別顧問を務めた経験を活かし、コビントンのTaxプラクティスにおいて、税務紛争対応に加え、組織再編や取引に関する税務プランニングなどの企業税務案件を担当します。
[コビントンパートナーがまたもう一人米国最高峰の訴訟弁護士団体であるAmerican College of Trial Lawyersフェローに選出されました] 今回選出されたBenjamin RaziはLaw360 の“Trails MVP” やThe American Lawyerの“Litigator of the Week”にも二度にわたって選出されています。コビントンでは、Lanny Breuer, Kevin B. Collins, Robert Haslam, Phyllis Jones, Carolyn Kubota, John Nields, George Pappas, C. William Phillip, Paul Schmidtに続く10人目となります。
[Latinvexの選ぶラテンアメリカ女性弁護士トップ100に2名入選しました]コビントンのラテンアメリカ・イニチアチブをリードするNicole Duclosは仲裁・訴訟分野で、南米Anti-Corruption プラクティス代表のVeronica YepezはFCPA・不正分野でそれぞれ選出されています。
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